東京地方裁判所 昭和40年(ワ)8342号 判決 1965年11月17日
原告 目黒信用金庫
右代表者代表理事 鎬木太郎
右訴訟代理人弁護士 富沢準二郎
同 鈴木誠
被告 株式会社大和銀行
右代表者代表取締役 寺田清
右訴訟代理人弁護士 大橋光雄
同 辻畑泰輔
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金三七六万円及びこれに対する昭和四〇年一〇月六日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決ならびに仮執行宣言を求め、請求の原因として、
一、訴外鶴谷富久はその振出にかかる約束手形につき不渡処分を受けることを免れるため、社団法人東京銀行協会に提供すべき手形金額として、被告に対し金三七六万円を預託したところ、原告は右鶴谷富久に対する東京地方裁判所昭和三九年(ワ)第一一、三二八号約束手形金請求事件の確定勝訴判決に基く強制執行として、同訴外人が被告に対して有する右預託金返還請求権に対し差押命令(横浜地方裁判所昭和四〇年(ル)第五三七号債権差押命令事件)及び転付命令(同裁判所昭和四〇年(ヲ)第八五〇号債権転付命令事件)を得、右差押命令は同年六月七日被告に送達され、転付命令は同年八月七日鶴谷及び被告に送達された。
二、よって原告は被告に対し右預託金三七六万円の返還と、これに対する本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一〇月六日以以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
とのべ、被告の主張に対し、
一、被告主張事実は認める。
二、原告は前記判決に基く強制執行保全のため、本件預託金返還請求権に対し、鶴谷富久を債務者、被告を第三債務者として東京地方裁判所より昭和三九年一一月二四日仮差押命令(同庁昭和三九年(ヨ)第七九二号)を得、この命令は鶴谷に対し同年一二月九日、被告に対し同年一一月二五日それぞれ送達されているから、被告主張の倉田靖平のためなされた差押ならびに転付命令は無効である。
と陳述し、立証≪省略≫
被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、
一、請求原因事実はすべて認める。
二、しかし、本件債権については、被告は倉田靖平のために発せられた差押命令(横浜地方裁判所昭和四〇年(ル)第五号債権差押命令事件)を昭和四〇年二月一二日に、転付命令(同裁判所昭和四〇年(ヲ)第一五四号債権転付命令事件)を同年三月四日に、それぞれ第三債務者として送達を受けている。
したがって原告の本訴請求に応ずることはできない。
三、原告主張の仮差押手続のなされていることは認める。
と陳述し、立証≪省略≫
理由
当事者双方の事実上の主張事実は、いずれも当事者間に争がない。
仮差押中の債権に対して他の債権者のため転付命令を発することはできない。それにも拘らず発せられた転付命令は実体上無効と解するほかはない。しかし、そのため、右債権者のためになされた差押命令まで効力を失うと解するいわれはない。この場合、転付命令の発布による執行手続の終了を理由として、同時に差押命令もその効力を失うと解する見解もあるが、この説によると、本件の訴外倉田靖平の場合のように、右の債権者に不測の損害を与える恐れがある。
取立命令を発すべき場合に、あえて転付命令の申請をした債権者はかかる損害を自ら招いたものとして甘受すべきである、と云い切るのは、債権に対する仮差押は他の債権者において容易にこれを知りえない実情に照して酷にすぎるし、転付命令が許されない場合にその申請があれば、裁判所は予備的に取立命令の申請が併合されているものとみて、取立命令を発すべきものと解すべきであることも考慮すれば、右の説を探るのは妥当でないことは明かであろう。
されば本件において、倉田靖平のために発せられた転付命令は無効であるが、同人のためになされた差押命令はなお効力を持っていたわけであるから、仮差押に優先的効果を認めない民訴法の下においては、右差押命令を無視してなされた原告のための転付命令もまた実体上その効力を生じないものといわざるを得ない。
よって、右転付命令によりその主張の債権を取得したことを理由とする原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松永信和)